5Gに柔軟性のあるランタイムが必要な5つの理由

Tomas Hedqvist

5Gネットワークを展開する際に重要なポイントとなるのが柔軟性です。CAPEX(設備投資)を抑制しながら、導入時間の短縮を可能にするのは、まさにこの柔軟性なのです。前の世代のネットワークと比較すると、5Gは展開時の複雑性が格段に増しています。そのため、ネットワークはもとより、ネットワーク機器についても、その設計、デプロイ、構成において高い柔軟性を確保しなければ、複雑性への対応が極めて難しくなります。この柔軟性を実現するための重要な要素となるのがランタイム・プラットフォームとその基盤となるハードウェアです。

5G RANアプリケーションにおいてフレキシブルなランタイム・プラットフォームがなぜ必要なのでしょうか。それには主に5つの理由が考えられます。

1 - 4G5Gの連

4Gの設計では、最初から無線とコア・ネットワークを組み合わせとして定義して展開するため、融通が利きません。これに対して5Gは、スタンドアロン(SA)方式とノン・スタンドアロン(NSA)方式の2つの仕様が定義されており、特にNSA方式は前の世代からのRANとCPUコアと連携させて運用する仕様となっています。このため、様々な展開の選択肢が存在します。これについては、例えば移動体通信の国際的標準化団体である3GPPが研究と仕様の策定を行っています(概要については、こちらをご参照ください)

ほとんどのオペレータは、4Gと5Gを連携させることで既存の設備を活用し、CAPEXの削減と導入時間の短縮を実現できるようになります。また、人口密度の高い地域については、5G NR(New Radio)設備の導入により新たなユース・ケースへの対応が可能になります。さらに、5Gコアを接続して5G NR設備を増強することも可能です。

これらを実現するには、ステップ・バイ・ステップのアプローチを採用し、どの段階においても大規模な設計変更を伴うことなく、5G設備を既存インフラに追加できる柔軟性が必要です。

2 - RANの複雑

ネットワークの高密度化や新たなテクノロジーの出現により、RANの複雑性は増しています。ホット・スポットやスモール・セルの増加、マルチホップ・テクノロジーやデバイス・ツー・デバイス(D2D)通信の導入により、様々なリソース・ニーズを持つ異種混合ネットワークが形成されています。また、マッシブMIMOをはじめとするエア・インターフェース向けの新テクノロジー、マルチポイントのコーディネーション、ビームフォーミングによって、コントロール・プレーンが複雑化し、さらに高い処理能力が必要になっています。

様々な展開シナリオや今後のエア・インターフェース・テクノロジーへのニーズは常に変化し続けているため、融通性に欠ける単一ソリューションでは全く太刀打ちできません。ケースごとに異なるプラットフォームを使用することも可能ですが、とても経済的に見合うものではありません。あらゆるタイプの展開に使用でき、幅広い接続密度とスループットのシナリオに対応する優れた設計のプラットフォームには、十分な拡張性と柔軟性が不可欠です。

3 - 新たなユース・ケー

5Gでは、他とは性質を異にする新しいユース・ケースが生じてきます。例えば、5Gでは、eMBB(Enhanced Mobile Broadband:モバイルブロードバンドの高度化)、URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications:超高信頼低レイテンシ通信)、mMTC(Massive Machine Type Communications:大量のマシン・タイプ通信)が要件として定義されています(詳細は、ITU IMT-2020に記載されています)。 これら3つの要件だけでも多くのサービス・シナリオが存在しますが、接続密度、スループット、レイテンシ、信頼性の要件の組み合わせはそれぞれ異なります。

gNB(NR基地局)は、どこに配備するかによって、コンテキストに応じた構成と最適化が必要になります。例えば、IoTのコンテキストに配備する場合、住宅地への配備とは異なる構成になります。超高信頼性のマシン・タイプ通信では、スタック処理で非常に厳しいリアルタイム性が求められるため、リソースを非リアルタイム・ドメインからリアルタイム・ドメインにシフトすることが必要になってきます。

特定ハードウェアの実装を活用してリアルタイムな重要機能を提供するソリューションでは、多様なリアルタイムのニーズに適応することは難しいでしょう。しかし、ソリューションがソフトウェアのみを使用して、高パフォーマンスのリアルタイム・ドメインと非リアルタイム・ドメインの両方へのリソース割り当てを構成できるならば、柔軟性もコスト効率も向上するでしょう。

4 - C-RANCentralized Radio Access Network:集中型無線アクセスネットワーク)の進

セントラル・ユニット(CU)と分散ユニット(DU)の間の機能分離は、スループット、レイテンシ、複雑性、柔軟性の間のトレードオフです。非理想的なフロントホール(FrontHaul)のために、オペレータは機能分離の方式を決定する前に、DU-CU間の距離がレイテンシにもたらす影響の大きさ、必要な帯域幅などの要素を検討する必要があります。

フロントホール・テクノロジーの進歩により、レイテンシの低下と帯域幅の増大が期待されるため、無線基地局からセントラル・オフィスへ、最終的にはクラウドへと、機能を移行することが可能になると考えられます。このことは、無線基地局とセントラル・オフィスのランタイムは、リアルタイム機能と非リアルタイム機能の間のバランスを変える必要性が出てくることを意味します。

こうした面でも、適応力に欠けるリアルタイム・ドメインは、コスト効率のよいソリューションにはならないことがわかります。

5 - 仕様の進

モバイル・ネットワークは常に進化し続けているため、5Gの第1段階が終着点というわけではありません。5G配備の準備が完了したとしても、4Gの進化が止まるわけではありません。これと同様に、5Gも、長期間にわたって進化し続けることが予想されます。将来、どのような仕様が策定されるか、ランタイムに関してどのような要件が定義されるのかはわかりませんが、モバイル・ネットワークが進化を続けることだけは、はっきりしています。現在作業が進められている3GPPのリリース16では、新しい機能や要件が追加されるはずです。まだ計画段階にも至っていない仕様や機能によって将来のランタイムがどのような影響を受けるかを知ることはできません。しかし、影響を受けた場合や影響を受けることが明らかになった場合に、柔軟性は、5Gネットワークへの投資の「保険」として機能します。

ランタイム・プラットフォームにおける柔軟

それでは、どうすればこの柔軟性を達成できるのでしょうか?当然この問いに対しては、エンジニアの数だけ答えがありますが、ある程度一般的なガイドラインは見えてきています。

特にソリューションをマルチコアの汎用CPU上で実行する場合、ハードウェア実装への依存度が高いソリューションは、ソフトウェア・ソリューションに比べ、柔軟性の面ではるかに劣っていることは明らかです。ところが、ソフトウェア・ソリューションが提供する柔軟性のレベルも様々であり、場合によってはパフォーマンス要件を満たすことと引き換えに柔軟性が損なわれることもあります。

Linuxは、ソフトウェア・スタックの上位層に「必須」のランタイムであり、ランタイム柔軟性の典型として認識される一方で、応答時間のパフォーマンス要件を満たす決定性ランタイムを提供しないばかりか、ベースバンドや無線での速度重視型機能が必要とする低ジッタも実現できません。これは、Linuxのリアルタイム・パッチ適用済みのバージョンであっても同じです。一方、POSIX対応のRTOSは、Linuxのようなエコシステム、親しみやすさ、そして多くの場合機能性にかける反面、速度重視型機能に適したフレキシブルなランタイム環境を提供できます。また、多数のCPUコアにわたって拡張できるため、5G RAN機器では有用です。残念ながら、ほとんどのOSは、4つのCPUコアを超えて拡張すると、1CPUコア当たりのパフォーマンスが低下します。ベア・メタル・ループは、必要なパフォーマンスを提供でき、(システム・コールを一切行う必要がないことを前提とした場合)拡張することも可能ですが、真正なOSに備わっている柔軟性、ポータビリティ、デバッグ可能性はありません。

なかなかこれといった特効薬がない中で、一番有望なのがソフトウェア・ベースのLinuxアクセラレーションです。本質的に、アクセラレーテッドLinuxソリューションは同質なマルチコアSoCを共有することにより、速度重視型機能と非速度重視型機能の両方を処理します。パーティション化したCPUコア群で実行されるリアルタイム・エグゼクティブが速度重視型機能向けの決定性ランタイムを提供する一方で、Linuxが時間制約の緩やかな機能に対するランタイムを提供します。CPUコアをリアルタイム・ドメインとLinuxドメインに動的に割り振ることにより、リアルタイム要件の異なる機能を処理するために極めてフレキシブルなリソース割り当てが可能になります。

アクセラレーテッドLinux5G向けランタイムの詳細についてはこちら。